ワインの世界でよく「マリアージュ」という言葉を聞くと思います。
このサイトでもよくマリアージュという言葉を使っていますが、このマリアージュとは、ワインと料理の相性のことを指します。
「このワインはこの料理といいマリアージュだ」
という場合は、ワインと料理がよく合っている、という意味で使います。
もともとは、マリアージュ(MARIAGE)は、フランス語で”結婚”の意味で、なんともロマンチックな言い回しではないでしょうか。
食事の前にアミューズブーシュ(一口前菜)としてキノコのフリットが出てきたのですが、お皿にはスプーン1杯分のオレンジとスパイスのジャムが添えられていたのです。
「このジャムをつけてお召し上がりください」そう言うと給仕長は去るのですが、妙に含みがありそうな雰囲気だったのです。
「何かありそうだな」と思いながらフリットをジャムにつけて食べるのですが、これが注文した食前酒とぴったり!最高のスタートを切るのです。
ところが、ですが、周りのお客様を見渡すと、どのアミューズにもオレンジのジャムは添えられていません。
ここで「はっ!」と気付いたのですが、私が頼んだ食前酒はグラスのヴィオニエで、ほのかなオレンジの香りのする華やかなワインに合わせてジャムを添えてきたのです。
ほとんどのテーブルではグラスのシャンパンが出るのでジャムはむしろいりません。
私が注文した食前酒の特殊性をふまえたお店側の即興だったのです。
これに気づいて店内を見渡すと、先ほどの給仕長が近づき、したり顔で
「よく気づきましたね。お察しのとおりです。」
と耳元でささやいたのです。
マリアージュを知ることで、きっとユーザー様もこういう会話がいつか必ずできるようになります。
ワインと料理のマリアージュ
大きく分かれる二つのスタイル
料理とワインのマリアージュは、ソムリエや専門家、または愛好家の方でも大きく二つのスタイルに分かれます。
①一つ目は伝統を重視し、その地域や歴史を重んじたマリアージュをよしとするスタイル。
②もう一つが伝統とか歴史とかは無視してワインと料理のみにフォーカスしてマリアージュを理論展開するスタイルです。
クリエイティブな料理を提供するお店に多く見られます。
①のスタイルはフランスやイタリアの現地のソムリエや愛好家に多いでしょう。
これは考えれば当たり前ですが、現地のレストランで現地の名物料理を楽しんでいるお客にわざわざ違う地域のワインを飲むのも不自然なものでしょう。
また、現地以外でも当然その人の考え方で地域性や伝統を重んじることもあり、もちろん日本のワインファンにも多くいらっしゃいます。
②のスタイルは、どちらかというとガストロノミックの文化が新しい世界に多く見受けられます。
ガストロノミックはフランスやイタリアの星付きレストランでは毎日のように使われる言葉です。
食の文化を一つの芸術レベルまで到達させ、一般的な”食べる目的の食”とは違う次元で理論展開を行う考え方です。
たとえば最近は北欧の三ツ星レストランの勢いが話題ですが、それらの国では寒いのでワインは造られませんので、そもそもワインと料理のマリアージュは新しい考え方なのです。
また、マエモやゼラニウムなどの三ツ星レストランの料理は創造性や独創性が際立っているため、後者の考え方がなじみやすいのです。
一般的に、多くのワインファンは①のことが多いのですが、こればかりはその人の好みなので仕方がありません。
逆に②のマリアージュをよしとするワインファンにいきなりドンピシャのワインをセレクトするソムリエがいたら、ワクワクするような食事になることでしょう。
一方、プロのソムリエであればお客様が来店されてからワインのセレクトをするまでに、どちらかのスタンスでおすすめをするかの決断をすることになります。
ここは難しいところではありますが、とはいえまったく情報がないわけではありません。
①来店されたときの雰囲気
②食前酒を飲み、食事を決める
③その時の会話や所作
のあいだにどちらのスタンスが好みかを見抜くことになります(この段階で判断が難しい場合は無難に①で接することになります)。
「えー!そこまで見抜くのー!?」
と思われる人は多いかもしれませんが、当サイトのユーザー様であればうなずける方も多いのではないでしょうか。
前おきが長くなりました。それではワインと料理のマリアージュの基本を検討してみましょう。
原則は、「重たい」か「軽いか」
ワインのマリアージュは、ソムリエ試験やソムリエコンクールでも頻出の問題で、それだけ奥が深いということでしょう。
勉強しようとすれば大変ではありますが、一般の方であれば「重い料理には重いワイン」「軽い料理には軽いワイン」が原則としてまずは押さえましょう。
重い料理とは、食べ応えがずっしりあって、濃い口当たりの料理のことです。
フレンチやイタリアンなどであれば、バターや赤ワイン煮詰めたソースなどは口いっぱいに風味が広がり、どっしり感じるはずです。
日本料理であればすき焼きや味噌煮込みなどは重い料理といえますよね。
軽めの料理とは、サンマの塩焼きとかを思い浮かべてください。
スパゲッティボンゴレやカルパッチョやフリットの料理などは軽く、さっぱりいただけるでしょう。
ここでは、ぜひ軽めの辛口白ワインを合わせてみてください。
この時に、重い料理に軽めのワインを合わせてしまうとワインが存在感を失ってしまい、「良いマリアージュ」とは言えません。
逆にサンマの塩焼きを食べているのに重めの高級ワインを飲むのは料理がワインについていけていませんよね。
まずはこの「重い料理には重いワイン」「軽い料理には軽めのワイン」の原則を覚えましょう。
そのうえで、興味のある方は次に進んでください。
動物性の脂は渋みでさっぱりさせる
次に、焼肉屋さんでよくウーロン茶を飲みたくなるのを思い出してみてください。
中にはサービスでウーロン茶を出してくれるところもあり、「なんて嬉しいサービスなんだ」と思った人もいるはずでしょう。
ウーロン茶には渋みの成分であるタンニンが含まれていて、これは赤ワインの渋みと同様の成分です。
そして、タンニンは動物性の脂を洗い流す効果があり、結果として口の中をさっぱりさせてくれるのです。
そのため、例えばフレンチで動物性油脂のバターをたっぷり使ったソースや脂分のおおい和牛のステーキなどは、重めの赤ワインが合うということになります。
ここで勘の鋭い人は「まてよ、じゃあ焼肉屋さんでウーロン茶がサービスで出されるのは、販売促進なんじゃないか」と思うと思います。
大正解!とまでは言いませんが、ウーロン茶を飲んだお客さんの中には口がさっぱりすることでもう一品お肉を頼む人もいるかもしれませんね。
魚介類の磯の香りには、酸味が合う
次に、前述のサンマの塩焼きや、焼き蛤を思い浮かべてください。
磯の香りがふわっと香り、いかにもレモンを絞りたくなる気がしませんか?
ここで、レモンを絞る代わりにレモンのような酸味がさっぱりした白ワインを合わせてみてはいかがでしょうか。
例えばロワールのサンセールやミュスカデなど、柑橘系の香りとさっぱりした酸味は磯の香りとよくマッチします。
塩味が強い食材は、甘口ワインで
次に、塩味の強いブルーチーズを思い浮かべてみてください。
そのままだとおいしいのですが塩味が強すぎて疲れてしまうかもしれません。
そこでポートワインやソーテルヌなどの甘口ワインと合わせてみてはいかがでしょうか。
例えばチーズにレーズンの入ったものや、生ハムにメロンを合わせるのは同様の理論で、塩味がそれ単体では強い場合は、甘味で塩味を緩和させるのです。
食事のスタイル自体のライト化がどんどんすすみ、また、本格的な味わいのワインが浸透することによってキャッチーな甘口や薄甘口のワインは楽しむ機会がどんどん減っているのです。
ライフスタイルの変化に伴い、ゆっくりと食事を楽しんだ後に一杯の甘口ワインを飲む余裕は、現代人には持ちづらいのかもしれません。
これは当サイトで念仏のように唱えていますが、ワインの一番の魅力はその多様性で、ユーザー様にはできれば頭の片隅に甘口ワインを置いておくことをお勧めします。
もし気分的にも時間にも余裕があり、デザートやチーズを召し上がるときには、ぜひ甘口ワインを思い出してみてはいかがでしょうか。
きっと「これこそがワインと料理のマリアージュなんだ」と、より一層味わい深くなることを約束します。
香りの一致
味わいの一致とともに、香りの一致もマリアージュでは重要です。
同系統の香りがするワインと料理は良いマリアージュが期待できるのです。
この場合の一致は完全なものでなくて問題ありません。
例えばジビエ料理ですと、ジビエ特有の血液の鉄っぽさが際立ちますが、これにやはり鉄っぽいミネラルの印象の強いポムロールやヴォ―ヌロマネは最高のマリアージュでしょう。
ワインは香りと味わいに一本筋の通った連続性がありますので、香りから味わいは連想できますので、これをマリアージュに応用するのです。
最初にご紹介したヴィオニエとフリットにほんの少しのオレンジのジャムを添えたマリアージュは、これに該当します。
家庭料理にはリーズナブルなワイン
中には例外もあるかもしれませんが、日本の家庭料理は様々な料理が一度に食卓に並ぶ特徴があります。
また、調味料もソースや醤油、ケチャップなどを各々がつけますよね。
こうなるとワインはあまり高級なものは合いません。
高級ワインは強烈な個性があるものなので、無難な造りをしていないのです。
もちろん、例えばご家庭でも高級なお肉を買って、高級ワインに合わせるように料理を作れば別です。
この場合は気分を盛り上げて、高級ワインを合わせてみましょう。
高級な料理には高級なワイン
では、高級ワインはどのような料理がいいのでしょうか?
例えばボルドーの古いヴィンテージのワインなどは、やはり高級レストランでしっかりとソムリエさんにマリアージュを検討してもらい、デカンタージュして楽しみたいものです。
高級ワインはご家庭向けのワインとはお金のかけ方が違います。
高い設備投資やイメージを保つための広告宣伝費は、「料理人が腕によりをかけた料理に合わせられるワイン」を目指して投下するのです。
地方料理には、地方のワインを合わせる
↑Tボーンステーキには、トスカーナの赤!
特に欧州のワインに関して言えば、もともとその地域に根付いて造られてきた歴史があります。
ワイン生産者はその地域の料理に合わせやすいように意図的にワインの味わいを調整しているので当たり前でしょう。
フランスやイタリアは、地方料理が発達していて、それらにはかならずペアとなるワインが生産されているものです。
これらはもちろん味わいとしても合わせやすいのですが、その地域の食文化を味わうという意味でも興味深いものです。
まとめ
ここであげたマリアージュの理論は、基礎的なもので、ガストロノミックの世界はもっと緻密に深くワインと料理のマリアージュを検討しています。
私が研修を受けたパリの星付きレストランは、次期のメニューの考察の際に本当にたくさんの試作とマリアージュを試みていました。
本当にいいマリアージュに直面すると、「これこれ!こんな組み合わせを待っていた!」というくらいの感動が味わえます。
ぜひ普段から料理とのマッチングを検討する癖をつけていただき、一段深いワインライフを送ってください。