カルトワインは、もともと軽視もしくは無視されてきたような畑から生まれる超高級ワインのことを指します(法律や規則などで決まっているわけではないので語源はあいまいです)。
あるいはもともと格付けは高かったのですが、それを上回るほど評価が高いため価格がきりあがり流通しているワインも同様の言葉で表現されます。
前者はサンテミリオンのヴァランドローやアメリカのスクリーミングイーグル、後者はロマネコンティやラターシュが該当するでしょう。
カルトワインは総じて生産量が少なく、そのため話には聞くけど実際に見たことはないというワインが多く、摩訶不思議(オカルト)なので「カルトワイン」と呼ばれるようになったのでしょう。
同様のキーワードにガレージワインやシンデレラワインなどという呼び方もありますが、おおよそカルトワインと同様の使い方をして問題ないでしょう。
ヴァランドローはもともとワインショップを経営していたいわば素人のオーナーが自分もやってみたくなり、自宅のガレージのようなところでワインを造ります。
これがロバートパーカーの目にとまり高評価を得ると一気にワインは人気化し、この流れが世界に飛び火したのがきっかけです。
もっとも、マスメディアによって価格が一気に跳ね上がるという現象はそれ以前からも起きていました。
パリスの審判で高評価を得たワインも軒並み価格が高騰しましたので、その意味ではマスメディアの影響によって価格が吊り上がったワインの総称を指す、ともいえるでしょう。
パリスの審判については、こちらをご覧ください。
このページでは、まずはカルトワインやそのほかのキーワードの全体像をご紹介したうえで、世界のカルトワインやプレミアムワインがどのようにして生まれるのかを検討してみようと思います。
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流通価格 | 平均値 | 生産量 | 流通価格×生産量 | |
Romanee Conti | 2210000 | 98.125 | 5500 | 12,155,000,000 |
DRC MONTRACHET | 860000 | *95.888 | 2700 | 2,322,000,000 |
Screaming Eagle | 380000 | 98.285 | 8000 | 3,040,000,000 |
Harlan Estate | 115000 | 98.285 | 20000 | 2,300,000,000 |
Pertrus | 352000 | 96.666 | 30000 | 10,560,000,000 |
Le Pin | 346000 | 96.875 | 8000 | 2,768,000,000 |
La Tache | 516000 | 96.752 | 20000 | 10,320,000,000 |
Lafite Rothschild | 100000 | 95.666 | 240000 | 24,000,000,000 |
Opus One | 43000 | 96.285 | 300000 | 12,900,000,000 |
Pingus | 97000 | 98.285 | 6000 | 582,000,000 |
Dom Perignon | 21000 | *94.125 | 4800000 | 100,800,000,000 |
Salon Blanc de Blanc | 70000 | *95.00 | 70000 | 4,900,000,000 |
↑の表は世界のプレミアムワインですが、それらのワインがどのようにして現在の価値を持つようになったのかをご紹介します。
そのうえで、次のカルトワインは何か、あるいは何がカルトワインになる要件かを検討してみましょう。
カルトワイン、ガレージワイン、シンデレラワインとは?
カルトワインの功罪
カルトワインは品質が称賛されるされることはその通りなのですが、さまざまな意見があるテーマなので、まずは賛成意見と反対意見をざっくりと押さえておきましょう。
カルトワインはそれまでの「高名な畑でないといいワインは造れない」という昔からの偏見を覆します。
これによって無名の畑であっても熱意と努力次第では世界のプレミアムワインに伍して戦うことができる、という素地を産むのです。
ワイン関係者は決して大企業ばかりではありません。
多くは小規模な零細企業ですが、新しいワイン造りに立ち向かおうという気持ちを奮い起こさせ、どれだけの希望を与えたかは計り知れません。
一方で、カルトワインの成功を目の当たりにすることで、中には安易に評論家好みのワインに飛びつき、改良のための忍耐とか伝統的手法の歴史などをまるっきり無視する生産者もあることはその通りでしょう。
また、カルトワインは一様に色は濃く、飲みごたえがあっていわゆるアメリカ人好みの味わいです。
確かにこれらのワインの味わいはわかりやすく、一般的には受け入れられやすいかもしれません。
繊細なワインの繊細さをくどくどとメディアが紹介しても、消費者はそこまで待ってはくれないのです。
この流れから一様のスタイルに高評価のワインが集中することで、ワインの一番の魅力である多様性や個性が損なわれるという批判は根強いです。
(ただし専門家、特にパーカーは一時期これらの批判に対して強烈に反論したことがあった)
カルトワインは生産量が少ないため、ワインジャーナリズムは物珍しさから取り上げることもおおく、これにつられて価格が上がることも多いのは、ワインファンであれば押さえておくべきでしょう。
そのため実際に目の当たりにしても大騒ぎせず、ボトルの半分以上は真価よりも希少価値や有名税なんだという見方も持っているほうが賢い付き合い方といえるかもしれません。
では、カルトワインやそのほかのキーワードを実際に見てみましょう。
カルトワイン
カルトワインと呼ばれるワインの特徴は、何といっても生産量の少なさに尽きるでしょう。
生産量が少ないにもかかわらずメディアの評価が極めて高いので、当然世界のワインファンは何とかして入手したいとなりますが、実際に手にすることができないのです。
噂には聞くけど手に取ることができない、となるとワインファンからすれば摩訶不思議で、これがカルトワインの語源でしょう。
カルトワインのほとんどは年間の生産量は1万本以下で、こうなるとおいそれとワインショップの軒先で見かけることはありません。
カルトワインの表現にふさわしいワインとして、
アメリカのスクリーミングイーグルやスペインのピングス、生産量が少ないということではロマネコンティもカルトワインといっていいでしょう。
ガレージワイン
ガレージワインは、大きな資本はないけどワイン造りに挑戦したいと始めた生産者が、自宅のガレージのようなところで始めたワインが該当します。
前述のように、ガレージワインといえばサンテミリオンのヴァランドローでしょう。
シャトーヴァランドローはもともと脱サラして始めたワインショップのオーナーが、今度は自分でも造ってみたくなって自宅の一部を改装してワインを造ったのです。
自宅のガレージで造るのですから当然生産量は多くはありませんので、カルトワインと同じようにとらえても問題ないでしょう。
ガレージワインとしては、サンテミリオンが突出して知られていて、
ヴァランドロー、ラゴムリー、テルトルロトブッフ
等が知られています。
シンデレラワイン
シンデレラワインはそれまで見向きもされていなかったようなワインが、メディアからの高評価によって一気に価格が上がったワインを指します。
シンデレラのように華麗に変身し、周囲の目が羨望のまなざしに変わったところからシンデレラワインというのでしょう。
これに該当するのは何といってもシャトーペトリュスでしょう。
1945年にマダムルパが買収を完了させた畑で造られたワインは、当初誰も見向きもしませんでした。
ところがマダムルパはペトリュスのワインが世界最高であるということを信じぬき、メドックの格付け1級と同じ価格をつけ、それを頑として下げなかったのです。
当然ボルドーの関係者からは冷笑、侮辱、中傷の的になるのですが、これにめげずにマダムは奔走。
マダムは保守的なボルドーのワイン業界ではなくアメリカやイギリスに目を向け、単身売り込みに行くのです。
すると徐々に品質が評価され始め、当時最高級とされていたニューヨークのラ・パヴィヨンで推奨されるまでになります。
こうしてフランス国内よりも海外での評価が高まり、これが時をかけてフランスでの評価をも定着させるようになるのです。
現在ではメドックの1級シャトーを大きく超える価格で流通され、経済的なインパクトも大変に強くなっています。
カルトワインの経済規模とその要件
これまででカルトワインとその周辺のキーワードを紹介してきました。
ここからはいよいよカルトワインが経済に与えるインパクトと、いったいどうすればカルトワインの仲間入りができるのかを検討してみたいと思います。
今回の表のなかの
流通価格はWine Seacher
平均値はWine Advocateの2010年までの平均値(幅がある場合は高いほうを選択)、あるいはワインによっては2000年までの平均値を示しています。
生産量はヤフーアメリカやヤフーフランスから拝借しました(生産量はワイナリーによっては非公表のことも多いので参考値としてください)。
参考として、生産量が多く一般的にはカルトワインとは呼ばれないワインもありますので適宜ご判断ください。
流通価格 | 平均値 | 生産量 | 流通価格×生産量 | |
Romanee Conti | 2210000 | 98.125 | 5500 | 12,155,000,000 |
DRC MONTRACHET | 860000 | *95.888 | 2700 | 2,322,000,000 |
Screaming Eagle | 380000 | 98.285 | 8000 | 3,040,000,000 |
Harlan Estate | 115000 | 98.285 | 20000 | 2,300,000,000 |
Pertrus | 352000 | 96.666 | 30000 | 10,560,000,000 |
Le Pin | 346000 | 96.875 | 8000 | 2,768,000,000 |
La Tache | 516000 | 96.752 | 20000 | 10,320,000,000 |
Lafite Rothschild | 100000 | 95.666 | 240000 | 24,000,000,000 |
Opus One | 43000 | 96.285 | 300000 | 12,900,000,000 |
Pingus | 97000 | 98.285 | 6000 | 582,000,000 |
Dom Perignon | 21000 | *94.125 | 4800000 | 100,800,000,000 |
Salon Blanc de Blanc | 70000 | *95.00 | 70000 | 4,900,000,000 |
流通価格
まず、流通価格は世界のおもなワインショップでの販売価格の平均です。
ワイナリーの蔵出し価格ではありませんので、「なんだ、ワイナリーってこんなに儲かるんだ」とはなりません。
とほうもない価格ですが、これは
①アジアを主体とするニューリッチ層と呼ばれる一部の新興成功者が買い占めている
②投機目的(転売目的)で売買を繰り返すために価格が切りあがる
とされていますが、ロマネコンティなどはさすがにいくらなんでも上がりすぎで、世界経済の停滞とともにいつだれがババをつかまされるか分かったものではありません。
評価の平均値
つぎに、平均値を見てみましょう。
平均値はワインアドヴォケイトの点数の平均で、おおよそ過去10年の点数を平均しています。
トップはスクリーミングイーグルとピングスとハーランエステートで98.285、ロマネコンティは98.125です。
これらは生産量が少なく、品質のコントロールを突き詰めると多くても2万本が上限なのかもしれません。
年間の平均生産量
つぎに、生産量に注目してみましょう。
ロマネコンティで5500本、スクリーミングイーグルで8000本、ピングスで6000本です。
DRCモンラッシェに至っては2700本で、世界のビリオネアが2200人ですからそりゃ奪い合いになります。
市場規模
一番右の流通価格×生産量を見てみると、プレミアムワインのおおよその市場規模がわかると思います。
ロマネコンティで121億5500万円、ラターシュで103億2000万円です。
DRCがこれだけ価格が高騰しているといっても、ラフィットの価額は240億、ドンペリにおいては1000億以上です。
これは価値のあるワインを多く生産することの難しさを表していますし、その評価がこの金額なのでしょう。
もっとも、ドンペリのような規模になると、一般的なワインファンの市場以外にも市場を開拓してここまでの成長を遂げたという見方もできます。
これは一部の人には耳障りが悪いかもしれませんが、以前は
「日本に入るドンペリの8割は夜の銀座と歌舞伎町に消える」
とワイン関係者から揶揄されていたことがありました。
もちろん本当かどうかはわかりませんが、すくなくともそういうマーケットがあるということは事実でしょう。
ドンペリのような売り上げを誇るには、ワインファン以外の市場開拓も必要ということでしょうか。
どのようなシチュエーションであれ、素晴らしいワインなのでじっくり味わってくれていればいいのですが、ワインファンとしては複雑な気分になるかもしれません。
カルトワインの要件とは?
では、これらをもとにカルトワインになるための要件を検討してみましょう。
まずは品質がメディアに認められないと注目されません。
ワインアドヴォケイトの点数を見ると、ラフィットロートシルトで95.666ですが、これは年間24万本を造っていてこれだけの品質をコントロールしています。
その意味では96点以上をとるというのは一つの目安になるでしょう。
もっとも、単年で96点以上をとるワインは結構あるのですが、平均して96点以上となるとこれが難しく、決して簡単なことではありません。
注目を集めたうえで、やはり生産量は少ないほうが目に付きやすいですし、メディアも取り上げやすいのはその通りでしょう。
見てお分かりのとおり、カルトワインと呼ばれるワインは1万本以下の生産量のところが多く、これを超えてくると極端な品質の追求は難しいということがわかります。
もっとも、スクリーミングイーグルもピングスも、ワイナリーは他にも特定のキュヴェを造っていて、品質に満たないブドウは他のキュヴェに回すなどをして品質を高く保っています。
今回はカルトワインについてご紹介してみました。
カルトワインはもちろん話題としては面白いですし、ワインファンであれば飲めるものならだれでも飲みたいと思うのが人情かもしれません。
しかし、実際においそれと支払える金額でないことはその通りですし、冷静になればそのほとんどが有名税だったり希少価値であることはわかることでしょう。
また、この手のワインは転売目的の投機的な売買も多く、多くの人の手を経るうちに保存が手薄になり、結果として品質に疑問のあるものも少なくありません。
やはりワインは専門家の評価や価格に振り回されずに、自分にとってのベストワインを選ぶことができれば、それが一番だと当サイトは考えています。
ところで、カルトワインの要件をよくよく検討すると、ほかにも「もっと価格が上がってもいいんじゃないか」というワインもあって、探し出した時は結構な興奮ものです。
個人的な話で申し訳ないのですが、ワインの仕入れで事前に調査をする際に、
「これは何でこの価格で取引されているんだろう。もっと高くてもいいものなのに・・・」
というワインにたまに遭遇するのです。
「次のカルトワイン」を探すのも、ワインファンとしては一つの楽しみ方といえるでしょう。
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