ーストリアは、現在お隣のワイン大国ドイツに負けず劣らず世界の逸品といえる、国のイメージのままクリーンで華やかなワインを生産しています。
ドナウ河流域のエリアではモーゼルやコートロティのような急斜面に900にのぼる名称付きの畑があって、そこで造られるプレミアムワインは専門家からも高い評価を得ています。
オーストリアはドイツ語圏で、ワイン用語もドイツ語表記が多いため、ドイツワインの弟的なイメージがありますが、ドイツワインがいまでも甘口ワインが多いのに対してこちらは辛口ワインが圧倒的です。
43000ヘクタールほどの栽培面積から白ワインと赤ワインでほぼ2:1の量で生産されています。
ドイツに比べて温暖なためワインの酒質はボリューム感があって酸味と果実味のバランスがいいものが多いのが特徴です。
オーストリアワイン
ジエチレングリコール事件
オーストリアワインを検討するにあたってどうしても避けることのできない事項があります。
(結論から言えば現在は完全に信頼を回復し、安全で高品質なワインを生み出しています)
オーストリアは、日本ではあまり知られていませんが近年急激にワイン界の様相を変えた国でもあるのです。
冒頭から申し訳ないのですが、もとをただせば1985年のジエチレングリコール事件がこの国のワイン界を一掃したことで、良くも悪くもすべての要素に劇的な変化をもたらしたのです。
ジエチレングリコール事件とは、ガソリンの不凍液をワインに加えることで味わいにまろやかさと果実風味を豊かに感じさせる不正をオーストリアの一部の業者が行った事件です。
これがオーストリアの最大輸出国であったドイツで発覚し、その後に世界的なスキャンダルとなるのです(日本にもその余波はあった)。
信頼が失墜したオーストリアワイン界は、まずはその原因を突き止め、猛省し、国を挙げてワインの安全と品質向上に取り組むのです。
事件発覚後の1986年の輸出量は1985年のなんと10分1という衝撃的な結果となり、事件前の水準に戻るのはその後15年たった2001年というからどれだけのインパクトがあったのか想像もつきません。
なお、このジエチレングリコール事件はワイン史に残る一大スキャンダルとして知られていますが、もちろん絶対にあってはいけないことを前提として、なぜ起こったのかを簡単に検討してみましょう。
ドイツはワイン生産国ではありますが、国内産の甘口ワインは上質で高価なことが多いため、スーパーなどに並ぶ安価な甘口ワインはもっぱら輸入ワインに頼っていたのです。
輸入ワインの最大相手国はお隣のオーストリアで、ネゴシアンと長期契約を結んでいたオーストリアのワイン業者は安定してワインを供給する必要がありました。
1982年のオーストリアは凶作で、酒質が弱く、これを補うために一部の業者がワインを修正する目的で不凍液を使ったのが始まりではないか、とされています。
ただし不凍液を混合する手法は一般の零細企業(ワイン生産者)が独断でできるほど簡単に編み出せる手法ではありません。
ここに一部のマスコミが切り込むのです。とかげのしっぽ切りで終わらせるほど世論は間抜けではありませんでした。
つまり、「いち個人が実行できるわけがない。組織的に計画して不凍液を混入させ、マーケットを欺いたのではないか?」
という疑念が膨らみ国際的なスキャンダルにまで発展するようになるのです。
売り手と買い手のゆがんだ上下関係により、理性よりも目先の利益に業界全体がおどらされた実態と内部腐敗が後日裁判によって明るみになります。
不凍液の混入のアドバイスは化学者までが指導するという衝撃的なもので、事件の責任を重く感じた関係者の中には自殺者もでる一大惨事に発展します。
1985年6月に発覚したこの事件を受けて、オーストリア国会はなんと同年8月29日に修正ワイン法の制定をするまでに追い込まれるのです。
ワインは農産物なので、本来作柄は天候が決めるものなのに、人間が作柄を約束してしまったために起こった事件、といえるかもしれません。
くどくどと最初にネガティブな過去をご紹介しました。ブドウ品種や生産地域をさらりと説明するだけでも良かったかもしれません。
しかしもう一歩踏み込んで検討してみると、現在のオーストリアワインは信頼回復の汗と涙の結晶であるというということがおわかりになると思います。
これだけの経済インパクトのある事件なので、中には職を失ったり職業を変えた人もいるでしょうし、さまざまな悲劇があったことは容易に想像できます。
それでもワイン文化をはぐくみ、粘り強く努力を続けた結果が現在のオーストリアワインの興隆だとすれば、ワインファンであれば知っておくべき項目だろうと考えました。
目の前の一杯のオーストリアワインは単なる一杯なだけでなく、これだけのドラマがあったのだと味わっていただければまた味わいも格別でしょう。
冒頭が長くなってしまいました。
では、実際にオーストリアワインの全体像をブドウ品種から見てみましょう。
主なブドウ品種
オーストリアはドイツ語圏なのでドイツと同様のブドウ品種が多くなりますが、固有の品種としてグリュナーフェルトリーナーがあって、これがオーストリアワインの象徴と言える品種です。
緯度に比べて日照量が多く、そのためリッチな口当たりになることがおおくなります。
ドイツと違って甘口ワインよりも辛口のワインが多く、そのため日本料理とも合わせやすいでしょう。
一般的な知識としては、以下の四つを押さえればほぼ問題ないでしょう。
Grüner Veltliner グリューナー フェルトリーナー
グリュナー フェルトリーナーは、オーストリアで最も栽培されている白ブドウです。
特にニーダーエステライヒとブルゲンラントで栽培されています。
和食との相性が良いワインが多く、日本でも徐々に知名度が上がってきています。
オーストリアを代表する重要な品種で、白ブドウのトラミネールと交配して生まれたとされています。
とても樹勢が強く、多くの実をつけることができるので、収量の調整が必要です。
比較的淡い色のワインが多く、香りは白胡椒や青いハーブの香りが特徴です。
味わいはフレッシュな酸味とキレがあり、ミネラリーなタイプが多く生産されています。
オーストリア以外では、ドイツやチェコでも栽培されています。
Welschriesling ウェルシュリースリング
北イタリア原産の白ブドウで、オーストリアでは二番目に広く栽培されている品種です。
イタリアではリースリング イタリコと呼ばれています。
豊かな酸味を持ち、柑橘的な香りと繊細な味わいが特徴的です。
辛口から甘口、スパークリングなど様々なタイプのワインが生産されています。ハンガリーやクロアチアでも栽培されています。
Zweigelt ツヴァイゲルト
1922年にフリッツ ツヴァイゲルト博士によって開発され、オーストリア国内で広く栽培されている黒ブドウです。ブラウフレンキッシュとサン ローランの交配品種です。
フルーティーな香りを持ち、タンニンが強いことが特徴です。
熟成を経ていない早飲み用のワインもあれば、小樽で熟成された高級ワインなど、幅広いワインが生産されています。
ハンガリーやチェコ、日本でも北海道など寒冷な地域で栽培されています。
Blaufränkisch ブラウフレンキッシュ
ブラウフレンキッシュは、ブラウアー ツィメートトラウベとヴァイサーホイニッシュの交配品種で、色々な品種の交配にも使われています。
ドイツではレンベルガーと呼ばれています。
晩熟で、スパイシーさがあり、タンニンが豊富で長期熟成に似ている黒ブドウです。
主な産地
オーストリアでは主に東側のエリアでワインが生産されています。
以下の四つの州を押さえたうえで、興味のある方は個別の生産地域を押さえればいいでしょう。
また、オーストリアにはホイリゲ↑という新酒が有名です。
炭酸ガスを含むぴちぴちした口当たりはとてもさわやかです。
Niederösterreich ニーダーエステルライヒ州
オーストリアの東北部に位置し、最もワインを生産している州です。
オーストリアワインの約60%が、ニーダーエステライヒ州で生産されています。
グリューナー ヴェルトリーナーやリースリングを使用したワインは、特に高い評価を得ています。
ヴァッハウではオーストリアのワイン法とは別に、独自の基準でワインの格付けを行うなどワインの品質管理を厳しく行っています。
ヴァインフィアテルはオーストリアで栽培の産地で、グリューナー ヴェルトリーナーが主に栽培されています。
Burgenland ブルゲンラント州
オーストリア東部にあり、ハンガリーとの国境付近に位置している州です。
オーストリアで生産される赤ワインの半分近くが、このブルゲンラントで生産されています。
ブラウフレンキッシュやツヴァイゲルトが栽培されています。特にミッテル ブルゲンラトでは、ブラウ フレンキッシュから力強く高品質な赤ワインが生産されています。
ノイジードラーゼー湖周辺では、湖がもたらす湿度により、貴腐ワインが生産されています。
西側のノイジードラーゼー ヒューゲルラントではルスター アウスブルッフが有名で、オーストリア最高の貴腐ワインとして、高い評価を得ています。
Steiermark シュタイヤーマルク州
シュタイヤーマルクはスロヴェニアと接している州で、オーストリアワイン全体の約10%を生産しています。
標高が高い産地が多く、栽培品種のうち70%が白ワイン用品種です。
西部のヴェストシュタイヤーマルクでは、ブラウアーヴィルトバッハー種を用いて、シルヒャー(SHILCHER)というロゼワインが特に有名です。
Wien ウィーン州
音楽の街で有名なウィーンでも、ワインを生産しています。
ゲミシュター サッツが有名で、多品種を混醸して造られた伝統的なワインです。
また町の周辺ではホイリゲという居酒屋が多くあり、発酵中の白濁したワインであるシュトゥルムも楽しまれています。
ホイリゲはオーストリアの新酒としても知られており、日本でも人気があります。
ワインブックススクールのお知らせ
ワインブックスメディアは、ワインブックススクール(WBS)が運営しています。
WBSは月額2200円のみ。ソムリエ・ワインエキスパート試験合格の可能性を最大化します。
オンラインなので、いつでもどこでも誰でも参加できます。
これを機会にご利用ください。
【月額月額5000円以下の店舗向けソムリエサービス】
ワインブックスのAIソムリエサービスはこちら→