グラーヴ(GRAVES)はボルドーの南側にあるワイン生産地区で、ボルドーでは珍しく赤ワインと白ワイン両方を認められたAOCです。
1855年のパリ万国博覧会の目玉の61シャトーで1級となった、素晴らしい赤ワインであるシャトーオーブリオンの産地でもあります。
グラーヴのワインは、メドックやサンテミリオンに比べるといまいちなじみが薄く、ごく一部のプレミアムワインを除けばほとんどの方はお飲みになったことがないかもしれません。
色々理由はありますが、その第一は、意外かもしれませんが、ながいこと「グラーヴといえば白ワイン」というイメージが強かったことがあげられます。
イギリスではスーパーなどで1980年代まで大きくグラーヴの文字の書かれたジェネリックワインが陳列されていて、これらはネゴシアンがいい感じに売り出しているのでとにかく目立つのです。
また、赤と白の両方を産出しているのですが、これが赤一本筋のメドックやサンテミリオンに比べてワインファンからみると中途半端な印象を与えているのかもしれません。
しかし、実際にしっかりと味わってみると格付けシャトーのものでなくても決して侮れるワインではなく、中にはメドックの有名シャトーにも品質の劣らないワインも少なくありません。
一般的に、グラーヴのワインはメドックに比べてスパイシーな印象だといわれています。
実際に飲んでみると確かにスパイシーなのですが、コショウとかクローブのようなわかりやすいスパイスの香りではなく、いろいろなスパイスが組み合わさったような独特の印象なのです。
そのためローヌ南部のような明らかにわかる甘草のような香りなどは感じにくいのですが、豊潤で芳香が多彩、酒質もしなやかで飲みごたえのあるワインが多いように感じます。
メドックのワインに比べるとコストパフォーマンスもよく、お勧めできるワインも多いので、ここで一度全体像を見てみましょう。
グラーヴ地区のワイン
地区の全体像
まずは地区の全体像を検討してみましょう。
グラーヴ地区は全長約50㎞に渡る地区で、ガロンヌ川左岸に位置する大きな地区です。
地区の中には43の村があり、ブドウ畑の面積は3100haと広大です。
もう少し見てみましょう。↑このように見てみると、北部のコミューンのエイジーヌから南部のマゼールまで、かなりの距離があることがわかります。
グラーヴ地区はボルドー市の北部を包み、メドック地区の南端であるブランクフォールのところから始まり、東側はガロンヌ川、西側はかなり奥深くまで幅広くなっています。
面白いのが南側で、ボルドー市から南東にずっと伸びていて、よく見るとソーテルヌやバルサックを包んでいるのです。
地元の人に言わせると昔はもっと広かったらしく、現在ではグラーヴの中央部は森林地帯に侵食されていてこれでも相当規模は小さくなったのだといいます。
これだけの広さがあるので、しっかり探せばいいワインにも見つかりますし、中には驚くほどお買い得なものも少なくありません。
なお、念のためグラーヴを構成するコミューンは以下のとおりです。
Arbanats, Ayguemorte-les-Graves, Beautiran, Bègles, Budos, Cabanac-et-Villagrains, Cadaujac, Canéjan, Castres-Gironde, Cérons, Cestas, Eysines, Gradignan, Guillos, Illats, Isle-Saint-Georges, La Brède, Landiras, Langon, Le Haillan, Léogeats, Léognan, Martignas-sur-Jalle, Martillac, Mazères, Mérignac, Pessac, Podensac, Portets, Pujols-sur-Ciron, Roaillan, Saint-Jean-d’Illac, Saint-Médard-d’Eyrans, Saint-Michel-de-Rieufret, Saint-Morillon, Saint-Pardon-de-Conques, Saint-Pierre-de-Mons, Saint-Selve, Saucats, Talence, Toulenne, Villenave-d’Ornon ,Virelade
これを見てお分かりのとおり、相当な数のコミューンがあるのですが、メドックのポイヤックやサンジュリアンのように独立したAOCがありません。
これはグラーヴのワインに歴史的にはっきりとした個性を持つ傑出した村がなかったことが一番の原因で、1989年になってようやくペサックレオニャンという独自のAOCが認められるようになるのです。
もっとも、近年ではペサックレオニャン以外にもタランスやマルティヤック、カドゥジャックなどは専門家の間では個別のグループとして検討されていることも増えてきました。
グラーヴはフランス語の「グラヴィエ(砂利)」という言葉の由来で、その名前の通り砂利を含んだ水はけの良い土壌となっています。
これが粘土質土壌のメドックと決定的な味の違いをもたらします。
ボルドー港の近くという立地から昔からワインの船便での輸送手段に恵まれていた地域です。
そのため、他の地域より世界に早く広まっていたワインなのです。
グラーヴワインの格付け
沿革を検討すると、18世紀にボルドーのワインはボルドー市にちかいグラーヴのワインがまずはけん引役として名をはせることになります。
メドックはボルドー市までの距離が長く、そのため治安の悪い当時は輸送中に犯罪に巻き込まれたり、あるいはワインを粗悪なものに詰め替えることも可能だったのです。
メドックの中心部はボルドー市から離れていて、船で運ぶとしても川をさかのぼらなければならないため、流通上都合が悪かったのでしょう。
ところが様々な事情から、いつの間にかメドックの品質に押され気味になり、秀逸なシャトーワインのお株は完全にとってかわられるのです。
そんな調子だったので、1855年当時の格付けの際に、ボルドーの酒商たちはグラーヴのワインを格付けしようという気にならなかったのかもしれません。
しかし、唯一オーブリオンだけは無視できるものでもないので、これをメドックの格付けに割り込ませる形で一つの結末を迎えるのです。
ただし、どう考えても格付け制度は海外の市場からすればわかりやすいし、グラーヴがこのままなのもあれなんでということで、ようやく第二次大戦後の1953年にグラーヴ独自の格付けをすることとなるのです。
格付けシャトーは以下のとおりです。ご参考ください。
シャトー オーブリオン Château Haut-Brion
シャトー ブースコー Château Bouscaut
シャトー カルボニュー Château Carbonnieux
ドメーヌドシュヴァリエ Domaine de Chevalier
シャトー クーアン Château Couhins
シャトー クーアンリュルトン Château Couhins-Lurton
シャトー フューザル Château de Fieuzal
シャトー オーバイイー Château Haut-Bailly
シャトー ラミッションオーブリオン Château la Mission Haut-Brion
シャトー ラトゥールオーブリオン Château la Tour Haut-Brion
シャトー ラトゥールマルティヤック Château Latour-Martillac
シャトー ラヴィルオーブリオン Château Laville Haut-Brion
シャトー マラルティックラグラヴィエール Château Malartic-Lagravière
シャトー オリヴィエ Château Olivier
シャトー パプクレマン Château Pape Clément
シャトー スミスオーラフィット Château Smith Haut Lafitte
ブドウ品種とワイン
砂利混ざりの土壌がカベルネソーヴィニヨンの栽培に向いているため、カベルネソーヴィニヨンを主体としたブドウ栽培が行われています。
メドックに似た土壌ではありますが、赤ワインはメドックよりもスパイシーで、かつ優しく軽い味わいです。
色も濃いルビーの美しい色調であることも特徴として挙げられます。
白ワインはソービニヨンブランやセミヨンが栽培され、高級ワインからデイリーに楽しめる軽めの辛口ワインまで幅広く生産されています。
グラーヴ・スーペリウールという甘口白ワインもAOCに認定されています。
現在、おおよその比率は赤ワインが75%、白ワインが25%ほどとなっています。
ボルドーワインのはしりを楽しむ?
前述のようにグラーヴ地区は海運流通の拠点として栄えていたため、認知度の伝播として優位性がありました。
そのためグラーヴはボルドー地方のワインを広めたとされる地区で、この地区からボルドーのワイン造りが始まりまったとされています。
メドック地区のワインが有名になる18世紀までは、グラーヴのワインは人気が高く、イギリスに輸出されるクラレット(ボルドーワインの愛称)の産地でもありました。
その後メドックに押されている状態が続きましたが、1937年には赤白どちらのワインもAOCに認定されました。
1970年代になってから品質向上によって素晴らしい赤ワインが産出されるようになり、流通価格でもメドックよりも高いものも出てくるようになり、現在に至ります。
本来であればジェネリックワインの大生産地域で、最近はネゴシアンワインでも品質は高く、スーパーなどで見かけた際は一度試してみてはいかがでしょうか。
価格も買いやすく、ボルドーらしい酒質がありながらも独特の芳香があり、飲みごたえのある味わいは、きっとデイリーワインにも最適でしょう。
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