クロドヴージョ(CLOS DE VOUGEOT)は、ブルゴーニュのヴージョ村で産するグランクリュの高級ワインです。
生産本数が多いので日本のワインショップでも見かけることは多いでしょう。
おおむね価格の低いものは1万円台から、高いものですと10万円近くのものまであり、まさにピンキリです。
ヴージョ村の全体の栽培面積が65ヘクタールなのに対してグランクリュのクロドヴージョが約50ヘクタールと8割弱の面積がこのワインにあてられます。
(残りの15ヘクタールのうち、プルミエクリュが12ヘクタールもある)
おそらくブルゴーニュワインのグランクリュの中でもとりわけわかりづらく、最もがっかりしやすいワインは、クロドヴージョでしょう。
何故でしょうか?
理由の第一は面積が50ヘクタールと広大なのですが、斜面の上部から下部までなだらか傾斜になっていて、おおよそ4メートルの標高差があって、これがワインに決定的な差をもたらすとされているのです。
第二に、これはよく知られていますが所有者が80以上にのぼり、そうなると酒造りの旨い下手がどうしてもあって、これが品質のばらつきにつながるのです。
ただし、素晴らしいクロドヴージョはしっかりと検討することで事前にある程度を把握することができるし、その品質は世界最高のワインの一つに間違いなく数えられるものでしょう。
過去にクロドヴージョに手痛い目にあったひとも、全体像をおさえるてみてはいかがでしょうか。
主な所有者は
シャトードラトゥール(5.48ha)、メオカミュゼ(3ha)、ルイジャド(2.15ha)、ルロワ(1.9ha)、グリヴォ(1.86ha)、ラマルシュ(1.35ha)、フェヴレ(1.29ha)、ユドロ・ノエラ(0.69ha)、アンヌ・グロ(0.93ha)、モンジャールミュニュレ(0.63ha)、ポンソ(0.4ha)
です。
これ以外にも多数の所有者がいますが、所有者自らワインを造るところもあれば、腕のいいマイクロネゴシアンに全権委任するところもあり様々です(バンジャマンルルーやオリヴィエバーンスタインなど)。
クロドヴージョの前に、ヴージョ村はブルゴーニュワインの歴史でも重要です。
↑ご覧のとおり村全体を見渡してみても市街地はほんの少ししかなく、ほとんどはぶどう畑で、かつそのほとんどがグランクリュのクロドヴージョという構成になっています。
ほとんど見かけませんがヴージョ村で産するワインにはヴージョというAOCがあって、これで売り出すことも可能ですし、プルミエクリュもあります。
クロドヴージョは赤のみですが、村名クラスやプルミエクリュは白もあって、これは珍しいもの好きの方のワインといえるでしょう。
クロドヴージョ
地勢
クロドヴージョの50ヘクタールの畑は標高差が3~4メートルあって、おおよそ3度から4度の傾斜になっています。
わかりづらいのが、クロドヴージョの中でもさらにクリマは分かれていて、それがおおよそ↑の図のようになっています。
この図ですと、上が斜面上部、下が斜面下部となります。
なお、これは余談ですが、よく見ると↑の右上に”MUSIGNI”とありますが、これがお隣のミュジニー(MUSIGNY)と誤解されやすいのです。
価格はミュジニーのほうが倍近く高く、そのため日本のワインショップなどでも平気な顔をしてミュジニーの文字を際だたせてクロドヴージョを売っているところがあります。
誠実なワインショップであれば、ここはユーザーが間違えないようにしっかりと説明するべきでしょう。
もちろん悪意はないのかもしれませんが、
「勘違いしてミュジニーだと思って買う人もいるかもしれない」
という欲に勝ちきれずに説明を省いているのかもしれません。
当サイトのユーザー様であれば間違えることはないと思いますが、念のためご注意ください。
クロドヴージョの名称の後にクリマが記載されているワインがありますが、記載されているワインのほとんどは斜面上部のクリマです。
中部、下部のクリマのワインはクリマ名を名乗るメリットがないので単にクロドヴージョと記載することが多くなります。
中部や下部の畑は上部に比べると専門家の評価は低く、あえて記載するのもあれなんでということでしょう。
グーグルマップと合わせてみるとこのようになります。これは北は上、東は右です。
これだけ広大なエリアなので、その中を検討すれば違いは大きいだろうというのは昔から言われてきました。
そして総論としてはおおむね斜面上部、中部、下部で品質はわかれいて、お察しのとおり上部がもっとも上質で下部が並質とされています。
畑の上部はコンブランシアン石灰岩が主成分で小石が多く水はけがよく、斜面下部は逆に粘土が多くなります。
↑の画像のクロドヴージョの東側にはしる74号線は1900年代前半にフランスの治水・林野庁によって堤防として築かれたものなので、ここに保水層ができてしまい、降雨がたまることになってしまうのです。
何故生産者が多いのか
クロドヴージョのもう一つの泣き所が生産者の多さでしょう。
↑の図のように、ものすごい数の所有者がいて、数メートルごとに一つのグランクリュを分割所有しているのです。
もともとこの畑は優れたワインを産出するとして知られていて、12世紀初頭からシトー派の修道院が何年もかけて
粘り強く土地取引を行ったことが記録されています。
修道院長の意思は強く、寄進してもらえない畑については資金を投じて解決し、1336年にはついにクロドヴージョの畑はシトー派の単独所有となるのです。
しかし、1789年のフランス革命で国庫に没収され、これが競売に出されるのですが、
「ワインの品質を考えれば分割して売るのではなく、ひとまとまりにしたほうがいいだろう」
という結論になるのです。
そうなると相当の資産家に限られてしまうのですが、これがガブリエル・ウーヴラール(↓Gabriel-Julien Ouvrard 1770~1846)だったのです。
ウーヴラールはナポレオンに軍事物資を提供することで濡れ手に粟で巨財を成した銀行家で、のちにロマネコンティも一時期手に入れるのです。
19世紀後半、フィロキセラに壊滅させられた畑をいよいよ手放そうというときに、買い手に名乗りを上げたのがイギリスとドイツの資産家でした。
これを知った地元のネゴシアンがよそ者に取られるものかと一致団結し、資金を出し合って共同で買い取ることを決断。これが全くの裏目に出るのです。
威勢よく買ったはいいものの、その後の酒造りになると親爺さんがあつまっても何一つ物事は決定できません。
時ばかりが過ぎ、各々のやりかたでないとやってられないとなり、自然と分割所有になるのです。
当初の所有者こそ15人程度なのですが転売や分割相続などが続き、またそこでも意見がまとまらずに争いも増え、徐々に現在のような形となったのです。
評価が難しいグランクリュ
かつてクロドヴージョはシャンベルタンやロマネコンティなどと並ぶほどの品質がありましたが、近年に大きく評価を落としたワインでもあります。
ジュヴレシャンベルタン村やヴォーヌロマネ村と比べても明らかに勢いがないのは、ひとえに乱立するメーカーが信用を落としたことにほかなりません。
古いラベルには生産者までを明記する義務も風習もありません。
そうなると自社のワインの品質の低さを自覚しているワイナリーは当然生産者名を記載しないのです。
ユーザーからすればどこの生産者が造ったワインかがわからなくても、なんとなく
「クロドヴージョだったらおいしいだろう」
ということで購入しますが、その品質の低さにがっかりすることになるのです。
実際に、1982年に英国のワイン評論家アンソニーハンソンが「バーガンディワイン」のなかで各所有者の持ち分をすっぱ抜くまでは、どこの畑をだれが管理しているのかがいまいちわかっていませんでした。
この本の発表で、生産者側はそれまでなんとなくこのままでいいだろうという雰囲気だったのが、
「これじゃいけない、消費者のためにならない」
と背筋を伸ばしたのは想像しやすいですね。
その時の反省から、現在ではラベルを見れば誰が造ったのかがはっきりしていて、現在はクロドヴージョの評価を取り戻しています。
ワインのタイプ
赤と白のワインが認められていますが、グランクリュのクロドヴージョは赤のみとなっています。
ヴージョ村のクリュは以下の通りです。
プルミエクリュ | |
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Vougeot Premier Cru (1er Cru) |
Les Petits Vougeots レ・プティ・ヴージョ |
Le Clos Blanc ル・クロ・ブラン |
|
Les Cras レ・クラ |
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Clos de la Perriere クロ・ド・ラペリエール |
|
赤も白も生産できる |
ヴージョ村のワインでもっとも有名なものはもちろんグランクリュのクロドヴージョです。
高名なワインではありますが、前述のように生産者によっては並質のものもありますので名前だけで大騒ぎをするのは早とちりです。
グランクリュ | |
---|---|
Grand Cru (赤のみ) |
クロドヴージョ (Clos de Vougeot) |
歴史
12世紀にシトー修道院の修道僧たちへ、ブルゴーニュの領主たちが土地を寄進したことがブドウ造りの始まりとなっています。
当時はクリュニー派の修道僧が権威をふるっていて、彼らはもともとは正しいキリスト教を普及させる目的で設立したので、国家からは特別の権利が与えられていました。
国王、領主、そのほかの世俗的権力の支配下には置かれなかったため、徐々に権勢を強め、ヨーロッパ社会の精神社会を支配します。
そうなると権威とともに金も入り込むようになり、徐々にクリュニー派の修道僧たちは堕落した生活を送るようになるのです。
それに自律反発する形でこの地に流れ着いたのがシトー派の修道僧です。
シトー派の修道僧はクリュニー派への反発心があったため清貧と勤労を尊び、自ら厳しい畑作業をして、ワインづくりに打ち込みます。
そうやって生まれたワインの原型がクロドヴージョなのです。
畑の周りには高い壁が作られ、その壁は現在でも残されており、AOCクロドヴージョの境界線となっています。
またこの土地にはコンフレリ・デ・シェヴァリエ・デュ・タストヴァン(利き酒騎士団)の本拠地があり、ブルゴーニュワインの素晴らしさを広めています。
合わせる料理
クロドヴージョは、できればよいドメーヌ物を選び、かつ、5~10年は熟成させていただきたいところです。
そのようなヴージョであれば、ジビエに血液のソースと合わせるような、複雑でミネラルの印象の強い料理が最高のマリアージュでしょう。
例えばカモのむね肉をパイ包みにして、その骨でソースを仕上げたような料理はぜひヴージョのワインと試してみたいところです。
このようなお料理は数年に一度でいいかもしれませんが、その時には思い出してみてはいかがでしょうか。
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