CAHORS(以下カオール)はフランスのガロンヌ川の支流であるロット川流域のAOCです。
2000年もの歴史がある、フランスで最も古い歴史あるブドウ畑のひとつになります。
カオールは「ブラックワイン」と呼ばれる黒みがかった色調の濃厚な赤ワインの産地で、フランス国内ではコストパフォーマンスの高いワインとして知られています。
カオールのブドウ品種であるマルベックは色が濃く飲みごたえのあるワインに仕上がり、以前はボルドー地方でも多く植えられていました。
しかし、その後にラフィットなどの研究結果で(ボルドーでの)カベルネソーヴィニョンに優位性が見出され、徐々に栽培面積は減ることとなります。
しかし、ワインの近代化が進む前はマルベックの個性は捨てがたく、実際には20世紀の初頭までボルドーワインの補強用にブレンドされていたのです。
このワインの歴史は古く紀元前ローマ時代にさかのぼります。
↑の図のようにカオールの街から東西にのびるロット河はおそろしいほどに蛇行していて、これに目を付けたローマ人の飲兵衛が流域に沿ってブドウを植えたのが始まりです。
ただしそのあとは様々な支配者が入れ代わり立ち代わり、近隣のボルドーとは全く違う歴史を歩みます。
その結果ワインの評価はボルドーとは違い決して高いものではなく、むしろ不当に低い評価を受けていました。
実際に1951年にAOVDQSの指定を受け、1956年の厳冬で壊滅的な打撃を受けたのちAOCの指定を受けるのは1971年と遅咲きだったのです。
カオール ワイン
ボルドーやブルゴーニュよりも、カオールが最高だよ
思い出話で申し訳ないのですが、フランスで生活していたころ、肉体労働の作業員の友人が、
「ボルドーやブルゴーニュよりもカオールのワインが最高だよ」
といっていたことを思い出しました。
これは、味わいや価格が求めやすいということもありますが、今考えるとなかなか切ない一言だったのです。
私はフランス滞在といってもほぼモグリ状態で、日本でいう不法移民みたいな存在でした。
すでに日本のソムリエ大会である程度の成績を残したのちにフランスに渡ったこともあり、フランスには日本でのお客様が会いに来てくれたりすることもありました。
そのうちのとあるお客様は
「きっと生活でいっぱいいっぱいだろうから、せっかくだからいいところで食事をご馳走しよう」
と様々なレストランに連れて行ってくれました。
私は日本人の個人観光客相手のガイドのようなアルバイトをしていたことがあって、そこで知り合った運転手の友人にその日の車の手配をお願いしたのです。
そして星付きレストランでディナーを終え、お客様をホテルに届け、車に戻ってそのディナーの思い出を話したときに彼が返したのが
「ボルドーやブルゴーニュよりも、カオールが最高だよ」
の言葉だったのです。
フランスの階級社会のなかで差別を受けるうちに(彼は移民の二世だった)、貴族的なイメージのボルドーやブルゴーニュのワインは心理的に抵抗があったのかもしれません。
にもかかわらず、未熟だった私は彼に絢爛豪華な料理とワインの思い出を話してしまい、深い違和感を与えてしまったのです。
もちろん本当の気持ちは本人にしかわからないのですが、遠く日本から来た私のような者を大切にしてくれた彼の心情をおもんばかると、いまでも言葉が見当たらないです。
カオールのワインは渋味も果実味も強く飲みごたえを感じ、これが”労働者のワイン”というイメージにぴったりだったのでしょう。
こくのある味わいが一日の作業で疲れた彼の肉体を潤したのかと思うと、ワインの渋みもまた格別です。
なお、カオールは同じ南西地方のマディランなどのほかのワインに比べると生産者による優劣が激しいので注意が必要です。
ワインショップでは2000円前後でありますが、購入時には信頼のおける人に品質をうかがうのがいいかもしれません。
カオール ワイン
ブドウの品種
カオールは赤ワインのみのAOCで、マルベック(コット)を70%以上使用することが義務付けられています。
マルベックはフランスではカオールが有名ですが、世界的に見るとアルゼンチンでも多く栽培されています。
メルローやタナ、ジュランソンノワール(現在はほとんどない)も一緒に使用されます。マルベック以外は30%未満で混醸されます。
カオールのブドウ産地は、東と西とで気温の差が大きいことが特徴的です。
西側は海岸沿いの温暖で寒暖の差が少ない気候なため、2種間ほど早くブドウの収穫が始まるのです。
石灰質の土壌はミネラル分を多く含み、ブドウ栽培には非常に適した土地となります。
(逆に東側のエリアは並質のブドウ生産です)
収穫は手摘みと機械式の両方が取り入れられています。
前述のようにカオールの中で収穫時期が違うため収穫から醸造までは2回分の作業が必要ですからスピードが求められます。
スピードの差によってそのまま品質に差が出てしまうため、素早い収穫を行います。
カオールワインの特徴
カオールは「ブラックワイン」と呼ばれるほど濃厚な色調の赤ワインとなります。
一般的に、色が濃いワインは味わいに凝縮感があり、価格も高くなりがちです。
ただし、南西地方のワインはほかの地方に比べて相対的に価格が低く抑えられる傾向にあり、カオールも品質の割に価格が低く設定されていることが多いです。
濃縮感があり、飲みごたえのある赤ワインが飲みたいときに、コストパフォーマンスを考えるとカオールは悪くありません。
ベリー系のスパイシーな香りとアーモンドのようなアクセントが特徴です。
力強いボディで、凝縮されたブドウの甘みを感じられる赤ワインです。
渋みがまろやかながらも、酸味と引き締まった後味がバランスの良さを引き立たせます。
もともとのブドウの性質からか、瓶詰めしたては渋味が荒く、ややおおざっぱな印象を受けると思います。
この荒々しさは熟成とともに収まり、逆に複雑性を生みます。
飲み方のコツ
日本に紹介されるカオールは、渋味が強くても滑らかで上質なものが多いです。
飲むときは、温度は16~18度くらいにして、徐々に温度が上がることでより豊潤な香りを楽しめます。
ご家庭であれば室温で保存し、夏場であれば飲む30分前くらいに冷蔵庫で冷やしましょう。
この場合は急冷することでボトルの中で温度差が生まれますので、できればデカンタージュをして温度を均一化させて、さらに10分ほどおくのがベストです。
グラスは中ぶりなものを選び、先がつぼまった形状のものを選びましょう。
カオールは決して高級ワインではありません。
しかし品質は高く、こだわったワインショップでは必ず見かけることができますので、ご家庭でおいしいワインを飲もうというときに強くお勧めします。
相性の良い料理
濃厚な強いボディのカオールは肉料理と相性良く、特に鴨やガチョウのコンフィとはとても美味しく組み合わせることが出来ます。
カオールの地域は実はトリュフの名産地で、トリュフとフォワグラを合わせた料理が名物となっています。
その名物料理に熟成されたカオールワインは最高のマリアージュでしょう。
渋みが強いのでクセのあるチーズとも相性良く、中でも近隣のロックフォールやオーベルニュのブルーチーズとは相性良くなっています。
カオールにはプラムの香りが強く感じますので、チーズにプラムのジャムを添えてもいいでしょう。
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