ミュスカデ(MUSCADET)はロワール川沿岸のナント周辺の下流域のエリアで生産される白ワインです。
日本にフランスワインが本格的に紹介された1980年代に、いち早く辛口ワインの代名詞として多くのレストランやメディアに登場します。
同時期に日本に紹介されたシャブリは相対的に高く、グラスワインではミュスカデのほうが重宝されていたのです。
その後のワインブームによってリーズナブルな辛口ワインはミュスカデ以外にも多数あるということがワインファンの知るところとなり、影を潜めた感があります。
しかし、さわやかな酸味と生き生きとした果実味、シュールリー製法による独特の風味はほかのワインでは得難いものがあり、ぜひ試していただきたいワインです。
後述しますが日本料理とのマリアージュも様々検討されていて、特に新鮮な魚介類とは最高の組み合わせです。
素材の味を生かした日本料理にはミュスカデは合わせやすく、1,000円台から購入できるため日常的なワインとしても強くお勧めします。
なお、単にミュスカデと言ってもAOCは4つあり、
MUSCADET ミュスカデ
MUSCADET DE SEVRE ET MAINE ミュスカデ ド セーヴル エ メーヌ
MUSCADET COTEAUX DE LA LOIRE ミュスカデ コトー ド ラ ロワール
MUSCADET COTE DE GRANDLIEU ミュスカデ コート ド グランリュー
の四つがあります。
この中でもMUSCADET SEVRE ET MAINEが最も知られていて、実質的にミュスカデのイメージを作っているといっていいでしょう。
また、混同しやすいものに
・マスカット(フランス語でミュスカと発音)
・ボルドーのブドウ品種でミュスカデル
という品種がありますが、全く別の品種です。
ミュスカデ
ブドウ品種
ブドウ品種はAOC名のとおりでMUSCADETです。
MUSCADETはMELON DE BOURGOGNE(ムロンドブルゴーニュ ブルゴーニュのメロン)ともいわれ、緑色が強く、さわやかさが際立った酸味の強いワインになります。
冷害にも、害虫への耐性も強い品種で、そのうえ日照量に恵まれなくても糖度が上がりやすい特徴があります。
現在のように栽培技術が発達していなかったころ、冷害で被害を受けたこの地域に代替で植えられたのが始まりと言われています。
酸度が高いため輝きが強く、特にテラスで飲むときは美しい外観が食欲をそそります。
シュールリー製法
この地域はAOCとは別にSUR LIE(シュールリー)といって、特別な製法をラベルに記載します。
シュールリーはLIE(澱 オリ)の上(SUR)で冬を過ごすという意味です。
白ワインはアルコール発酵をさせると発酵した酵母が澱となってなって沈殿します。
通常は澱はワインに澱の香りがついてしまい、好まれませんのですぐに分離しますが、ミュスカデは澱を取り除かずにそのまま冬を越すのです。
これはなぜでしょうか?
ミュスカデという品種は普通に醸造すると個性に乏しく、ミュスカデらしさを出すのが難しいブドウなのです。
「この産地ならではの特徴をなんとか加えられないものか・・・」
こう考えたワイン生産者が
「それだったら澱と一緒に冬を過ごし、独特の風味をワインにつけてみたらどうか」
という提案をするのです。
ワインにしてみたところ、フレッシュな酸味とともに酵母の香りが特徴のミュスカデワインが生まれたのです。
1709年の晩霜
ミュスカデのあるナント地方は1709年まではボルドーと同じカベルネ種の赤、もしくはブランデー用のフォールブランシュを栽培していました。
しかし、1709年の冷害(晩霜)によって壊滅状態に陥ります。
これを機に耐寒性の強いミュスカデ種を植樹し、それがこの地方の特色となったのです(ブドウの名前がワインの名前になるのでミュスカデという地名はありません)。
ミュスカデはもともとこのような、ある意味のリスクヘッジで植え替えられた品種です。
そのため造られるワインも当初は粗末なものが多く、イギリス向けのシャブリワイン(!)としてブレンドされていました。
ところがもともとブルゴーニュワインは相対的に価格が高く、コストパフォーマンスに目がないパリジャンたちに
「どうやらシャブリワインにはミュスカデがブレンドされているらしいぞ。シャブリは高いから、それだったらミュスカデを飲もう」
という気風が生まれます。
そしていつの間にかパリで人気のワインとなり、「ミュスカデは売れる」というビジネスチャンスと気風が現れます。
そこを投資家たちが目ざとく出資をし、畑を拡張して生産量を増やし、いつしか世界中に輸出されるようになったのです。
コンプライアンスが叫ばれる現代社会では信じられない話かもしれませんが、今回のミュスカデの例のように「シャブリとして売ってしまえ」という例は他にも多数あります。
1900年台初頭まではほとんどのワインはネゴシアンが瓶詰めをしますが、彼らは自分たちで農作業をしていませんので生みの苦しみを知りません。
彼らは商人ですからすこしでも利益を出すことこそが正義なのです。
そうなると「多少目をつぶっても儲けの多いほうがいいでしょ?」という理屈が通るようになり、いつの間にか平気な顔をしてまがい物を流通させるようになります。
こうなると一番割を食うのは消費者と生産者で、だまされる消費者のほうもいい気はしませんが、(ネゴシアンの意思で)だます側の生産者も気持ちの悪いものでしょう。
この悪い連鎖を断ち切るために生産者元詰め、つまりワイン生産者が瓶詰めまでを行うドメーヌという発想が生まれるのです。
飲み方のコツ
ミュスカではさっぱりした口当たりなので、白ワインの中でも冷やし気味に6度程度で飲み始め、徐々に温度が上がって8度くらいになる、というイメージが最もおいしく飲めるでしょう。
この温度ですと、冷蔵庫で一晩冷やし、室温に10分程度置けば近い温度になります。
また、グラスは大ぶりでなければどのようなグラスでもいいですが、できれば先がつぼまった↑のようなグラスをきれいにみがいておきましょう。
ミュスカデは輝きが強く、光を反射してきれいに映る特徴がありますので、美しい外観もおいしさを一層引き立たせます。
基本的にはデリケートなワインではありませんので、栓をして冷蔵庫に保管しておけば2~3日は十分に楽しめます。
合わせる料理
酸味がすっきりしていてさわやかですので魚介類全般に合わせられます。
鮮魚のカルパッチョや塩焼きにもいいですし、牡蠣やホタテの貝類にも合います。
ただし、あまり凝った料理にはワインがついていけませんので、できる限りシンプルに仕上げた料理のほうが合わせやすいでしょう。
日本料理では、例えばサンマの塩焼きを思い浮かべてみてください。
香ばしく焼きあがったサンマには、さっとレモンを絞って、かぶりつきたくなるでしょう。
このレモンの風味をミュスカデの柑橘系の香りで代替するのです。
焼きたてのサンマやイワシなどの青魚と一緒に、是非お試しいただきたいマリアージュです。
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