ブルゴーニュワインを好きになると、必ずと言っていいほど「クリマ」という言葉にぶつかります。
そしてワインをもう少し知ると、今度は「ミクロクリマ」という言葉も出てきます。
なんとなく二つの言葉は似ているだろうということは想像がつきますが、では具体的に何がどう似ていて何が違うかを言える人は少ないかもしれません。
フランス語でクリマは”CLIMAT”と書きます。
そしてこれは英語のクライメートCLIMATE(気候)という意味とほぼ同じです。
英語でいうCLIMATEは、転じて風土という意味も持ちますが、それでも気候をイメージさせる言葉であることには変わりありません。
ここをスタートに、何が”ブルゴーニュでのクリマ”なのか、ミクロクリマとの違いは何なのかを探ってみましょう。
ブルゴーニュのクリマとは?
区画畑の意味?
ブルゴーニュワインは、クリマに始まってクリマに終わると言われています。
それだけクリマという言葉は重要なのですが、最初にタネを明かすと、クリマはブルゴーニュでは「区画畑」の意味になります。
そのため、ブルゴーニュでいうクリマは英語のワイン用語だと「シングルヴィンヤード」ということになります。
しかし、英語のシングルヴィンヤードとクライメートは全く違います。
前述したように元々の言葉の意味は「気候」なのに、なぜそこから「区画畑」となってしまったのでしょうか?
本来は気候を表す言葉なのにもかかわらず、なぜ「区画畑」を表す言葉になったのでしょうか?
謎は深まります。
ここで興味深く思った方は、もうブルゴーニュワインのとりこに片足を踏み込んでいますよ。
クリマの大きさ
やや脱線しますが、ブルゴーニュのクリマはその規模が大変に小さく、おおよそ1haから10haまでになっています。
ロマネコンティは1.8ha、シャンベルタンは13ha、モンラッシェは8ha、ラロマネに至っては0.8haしかありません。
グランクリュで最も大きなクロドヴージョは47haもありますが、おおよそほとんどは10ha程度までと考えていいでしょう。
ブルゴーニュと双璧をなすボルドーを見てみるとその小ささがわかります。
ラフィットロートシルトは94ha、ラトゥールが65ha、シャトーマルゴーは90ha、小さいといわれているペトリュスですら11haあるのです。
ここであえてボルドーのシャトーとの比較を出したのは、ブルゴーニュのクリマはそれだけでAOCの区分であるのに対して、ボルドーのシャトーは単体ではAOCの区分にはなっていないのです。
(例えばラフィットロートシルトやシャトーマルゴーなどのAOCはありませんが、ロマネコンティはAOCになっています)
つまりAOCの規制や格付けの対象になる、ということは、
それぞれのクリマがそれぞれはっきりした個性を持っているのではないか?
という仮説が立てられるのです。
クリマの歴史
ここで、やや回りくどくなりますが、クリマという概念がなぜ生まれたのか、ブルゴーニュワインの歴史を見てみましょう。
クリマの概念が定着したのは、シトー派修道士たちのおかげだといわれています。
やや専門的になりますのでくわしくは省きますが、10世紀ころはクリュニー派の修道院の最盛期で、ヨーロッパ各地に分院を擁してヨーロッパの精神世界を支配してました。
クリュニーの修道院はあまりにも大きく偉大な権勢を誇っていたため修道僧たちは物欲に走り、次第に堕落した生活におぼれるようになります。
そして、この堕落ぶりをよく思わない一部の修道僧たちは、クリュニーを捨てて人里離れた地を求め、そしてニュイサンジョルジュの東の荒地にたどり着くのです。
この場所は、ソーヌ川のほとり、葦(あし)がおい茂ったため、彼らは葦の意味であるCiteaux(シトー)からシトー派と呼ばれるようになりました。
シトー派の修道僧たちは、もともとが世俗的な豊かさで堕落したクリュニーの修道僧たちへの反動がその源泉であったため、清貧の生活を送り、生活は純化そのものでした。
しかし、質素な生活とは言っても聖餐の儀式にはワインが必要です。
そのワインには精いっぱいの魂を込めて造るのが彼らのプライオリティだったのです。
もっとも、修道院の場所はワイン造りには不向きでしたので、コートドールの日当たりと水はけの良い土地を見つけ、ブドウ栽培を始めます。
それがクロドヴージョです。
シトー派の心情は極めて純粋で質素なものなのですが、神にささげるものはその中でも最高の純粋さを持っていなければなりません。
そのためには、ワイン畑には優れた気候と土壌、斜面が必要なのです。
その発想がたどり着いたのは、限りなくすぐれた区画を選び、ブドウではピノノワール種のみに先鋭化された・・・
純化されたシトー派のワインづくりでは、優れたブドウとは、その土壌をそのまま表す媒介者だという発想なのです。
そうなると
「よいワインとは、良い区分畑だ。」
つまり、彼らからすれば気候や土壌(クリマ)がワインそのものなのです。
これがクリマの原点です。
ブルゴーニュにおいてはそれだけ区画畑(クリマ)を大事にしているのですから、おのずとクリマがAOCの根拠となったのです。
なお、比べてみると面白いのが、ブルゴーニュの生産者のトップは、とてつもない価格で売れるワイナリーのオーナーであるにも関わらず、華美な服装はしません。
どの写真も作業着のような服装をしていて、正装をするときも決して高価なスーツに身を包むということはしません。
もともとは清貧を美徳とするシトー派の流れを汲むため、世俗的な華やかさに対して抵抗感を感じているのでしょう(一部例外もあります)。
比べて貴族的なイメージのボルドーのトップは、ほとんどの写真が仕立ての良いスーツ姿で、作業着姿は見たことがありません。
これは嫌味ではなく、ボルドーのシャトーのトップからすれば「大量の高品質ワインを造り、大量に売る」ということが第一義であって、スキのないスーツ姿こそが彼らのファイティングポーズなのです。
ミクロクリマとは?
クリマが「気候条件」を起源にした「区画畑」であることを説明しました。
では、ミクロクリマとはどのようなものでしょうか?
ミクロクリマは特にワインに対しては「微気象」「局地的気象条件」と言われています。
その土地の標高や斜面の向き、土壌、土質、気候などを細かく分析した分布図と考えていいでしょう。
クリマとは語源が違いますし、言葉の成り行きも同じではありません。
クロ、リューディとは?
クリマに似た言葉にCLOS「クロ」があります。クロは石囲いの意味ですが、石で囲われていなくてもクロと名乗っている畑は多数あります。
また、リューディ(LIEU DIT)は、クリマとほぼ似たような小さな区画のことを指します。
ブルゴーニュは、クリマの言葉の成り立ちからわかる通り、精神世界に強く影響を受けていて、それがワインの先鋭化につながっています。
ビオディナミ製法などのスピリチュアルな手法をためらわずに取り入れる生産者はブルゴーニュに特に多いですね。
これはクリマの言葉の成り立ちのように、シトー派の精神世界の影響を受け継いでいるからなのかもしれません。
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